インターネットの黎明期、Internet Explorerは圧倒的なシェアを誇っていました。ですがInternet Explorerはその規格の古さゆえに、高度に発展した不正アクセス技術に対応出来なくなり、徐々にそのシェアを落としていくことになりました。
その代わりに台頭したのが、Google社が展開しているGoogle Chromeです。ブラウザシェアの調査サービス「Statcounter」の調べでは、日本における2021年10月時点でのChromeのシェアは49.6%にも上り、文句なしのトップシェアであることが分かります。
そんなGoogle社では、GCPというクラウドサービスも展開しているのをご存知でしょうか。
残念ながらクラウドサービスのトップシェアの座は、Amazon社のAWSに奪われているのが現状ですが、しかし、Google社だからこそ利用出来る機能もたくさんあります。今回は、その詳細についてご紹介しましょう。
GCPとは
GCPは、Google社が2008年から展開しているクラウドサービス「Google Cloud Platform」の略称です。
Google社が利用している高度なインフラ環境が用意されており、Google検索やYouTube、Gmailと同等の環境を利用出来るのが、最大の特徴と言えるでしょう。
技術面では、データ分析やAI学習などを得意とし、その他にも画像分析やテキスト翻訳、音声の文字起こしを行うAPIなどのサービスなどもあります。
メリット1:独自技術が利用可能
GCPにおける最大のメリットは、前述の通りGoogle社ならではの機能を利用出来るという点です。例えばYoutubeのAPIを利用すれば、Youtube動画を検索するプログラムを簡単に組むことが出来ます。
こればかりはAWSにも出来ない、ブラウザのトップシェアである、Google社ならではのメリットだと言えるでしょう。
メリット2:従量課金制
秒単位での従量課金制を導入しているため、使用した分だけしか料金がかかりません。また、長時間利用するだけで最大30%の割引が適用されるなど、コスト面でも優秀です。設定にもよりますが、全体的にAWSよりも低コストで運用出来ると言われています。
メリット3:ビッグデータ解析
Google Chromeという超一級の検索エンジンを持つGoogle社は、ビッグデータ解析の分野で大きな強みを持っています。特にPOSデータなどはクラウドとの相性も良く、膨大なデータを高速で処理出来ると言う点は、他のクラウドサービスにはない、抜きんでた特徴です。
メリット4:機械学習機能が優秀
Google独自の機械学習サービスを持っており、専門知識が無くとも機械学習を実装出来るように、サポート制度も存在しています。巨大なデータセットでのトレーニングも、低いハードルで挑戦出来るのは、企業にとって有難いポイントですね。
デメリット1:トップシェアでない弱み
トップシェアであるAWSと比較すると、日本語の情報が少ないというデメリットがあります。公式ドキュメントはほとんどが英語で提供されているため、サポートを受けにくく、社内で英語に精通した人材がいないと運用は難しいかも知れません。
デメリット2:リージョンの少なさ
GCPのリージョンはまだまだ拡大途中であり、障害発生時の対応に不安点が残ります。そのためグローバルサービスの展開に考慮が必要だったり、トラブル対策が必須だったりと、気を付けるべき点が多くあります。
デメリット3:サービスの種類がシンプル
事細かにサービスの種類をカスタマイズ出来るAWSと比較すると、GCPが提供しているサービスはシンプルです。その分GCPならではの技術も多いため、利用する際はしっかりと検討する必要があります。
導入事例について
前述の通り、GCPには様々な独自技術が用意されており、多くの企業のクラウド化の礎となっています。Google社のホームページでは、200以上もの導入事例が公開されていますので、そのいくつかをご紹介します。
GCP導入事例1:セイコーソリューションズ株式会社
かつて学生のマストアイテムの1つとされた電子辞書ですが、現在はスマートフォンの普及により、その市場はどんどん小さくなっています。ピーク期の4割程度まで落ち込んでいると言うのですから、驚きですよね。
そうした需要の変化をいち早く察したのが、セイコーホールディングスグループです。
2015年に電子辞書ビジネスから辞書アプリビジネスにシフトし、タブレット向けの「セイコー辞書アプリ」を提供しています。
このアプリをWebサービス化するために選ばれたのが、GCPでした。
規模拡大の際にメンテナンス不要で追従しやすいことが決め手となり、フルマネージド型のサーバーレスコンピューティングプロダクトのCloud Runが採用されたそうです。
GCP導入事例2:株式会社Colorful Palette
スマートフォン向けリズム&アドベンチャーゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」を提供しているゲーム開発企業です。
それまで最大15人接続が限界だったバーチャルライブの上限人数を、リアルタイム通信エンジンの「Diarkis」やGoogle Cloudの導入により大幅に増加させ、100人同時接続を可能としました。また、カウントダウンイベントのクライマックス時には、10万人近い数の同時接続数も見事に捌き切ることも出来たそうです。
GCP導入事例3:株式会社ノジマ
かつてノジマグループのテレコム関連事業、アイ・ティー・エックス株式会社では、300拠点の携帯電話ショップに販売管理システムを導入していました。しかしこのシステムの業務において、社内にはセキュリティなどの面で「ノートPCの持ち出し禁止」という制約があり、外出先からわざわざオフィスに戻って作業しなければならない、という非効率的な課題があったそうです。
これを解決するために、ノジマグループではGCPを導入、データをサーバ管理すると共にChromebookを活用し、社外でも業務に専念出来るよう工夫しました。Chromebookは、PC紛失時にデータ消去出来るなど、セキュリティを担保出来ることが決め手となったそうです。
GCP導入事例4:全日本空輸株式会社
全日本空輸株式会社、通称ANAでは、顧客満足度の向上を目的として、「ご意見・ご要望デスク」を運営しています。しかし空港業務という性質上、寄せられる意見は国内のみならず、海外からも届きます。
この時、レポートはまず日本語で作成されますが、米国の空港であれば英語での共有も必要になります。そのため翻訳スタッフへの負荷、あるいは翻訳会社へ依頼する時間とコストが大きな課題となっていました。
こうした背景から、ANAはGCPに導入を決めました。Google社の持つ翻訳技術やセキュリティ、航空業界特有の専門用語に対応出来る柔軟性が評価され、ブラウザ翻訳システムである「WACA(Words Advanced Communication Approach)」の開発に至ったのです。
特筆すべきはその独自技術
クラウドサービスにおけるシェアを見てみると、残念ながらGCPはAWSには及ばず、そのためにコミュニティもAWSほど活発ではないのが実情です。そのためハードルの高さを感じる方も多くいらっしゃると思いますが、しかし、GCPには他のクラウドサービスでは代替出来ない、素晴らしい独自技術があります。
何と言っても「ググる」なんて言葉を生み出すほど浸透した検索エンジンは、他にはありません。そこで培ったノウハウが詰め込まれた技術やAPI、サポートは企業にとって本当に心強いものですよね。
GCPのシェアが劣るからと言って、何もかもAWSの方が優れているわけではありません。どのような目的で使用するのか、それをしっかり見据えた上で、相応しいサービスを選別しましょう。