働き方改革とは、「残業時間の上限規制」「有給取得の義務化」を定めた制度だけではありません。しかし、それ以外の制度についてご存知ない方は、大勢いらっしゃるのではないでしょうか。
「働き方改革を学ぶ」3回目の今回は、新たに義務付けられた3つの制度について、簡単に解説していきましょう。
産業医の機能強化
従業員の健康を守るため、50人以上の労働者がいる事業所の場合、これまでも企業には「産業医の設置」が義務付けられていました。ただしその裁量は非常に弱く、超長時間の労働で心身に影響が出た社員がいても、産業医には「事業者への何の権限もない勧告」程度のことしか出来ませんでした。
しかし今回、2019年04月からその裁量が強化されました。企業側は以下2点の法的義務が生まれたのです。
① 事業者は、産業医へ従業員の労働時間を必ず報告しなければならない。
② 産業医からの勧告があった場合、事業者は衛生委員会等へ報告、および議事録への記録を行い、客観的な対策を取らなければならない。
この2つの義務により、事業者は産業医の言葉を無視することが出来なくなりました。過剰な労働を強いる企業に対し、労働者は自分の身を守りやすくなったと言えるでしょう。
割増賃金率の中小企業猶予措置を廃止
大企業には既に適用されている制度の一つに、「月60時間を越える残業時間の割増賃金率は、50%以上でなければならない」というものがあります。
これまで中小企業にはこの制度が適用されていなかったのですが、2023年04月から、その猶予措置が廃止されることになりました。
中小企業の方にとっては大事件かも知れませんが、同時に施行される「残業時間の上限規制」を真面目に取り組むことが出来ていれば、それほどの痛手とはならないはずです。
割増賃金猶予が廃止される前に、業務を改善し、少しでも残業時間を減らしていくことが大切です。
同一労働・同一賃金の原則
近年深刻な問題となっている、正社員と非正規社員の格差を失くすための法案です。内容は「労働内容が同じであれば、賃金や福利厚生も同じであるべき」というもので、労働者からすれば、当たり前の話でしかありません。
この制度が適用されるのは、大企業の場合は2020年04月から、中小企業の場合は2021年04月からです。
2019年現在ではまだ適用された企業はありませんが、今後、派遣社員や契約社員の方々の待遇に、大きく影響していくことになるだろうと言われています。
具体性の欠如が課題
今回ご紹介した制度のうち、「産業医の強化」と「同一労働・同一賃金の原則」は、その制度こそ素晴らしいものの、具体的な内容までは定めていません。
産業医がどのように事業者へ勧告をするかは、良くも悪くも個々の裁量次第ですし、「同一労働」か否かを誰が判断するか、という問題もあります。
まだまだ改善されていく、改善されるべき余地のある制度ですので、今後の動向にも期待していきたいところですね。