情報化社会と呼ばれる現代、コンピュータはありとあらゆるところで活躍しています。金融、小売、飲食、自治体、業務システムを全く使っていない業界なんてないでしょう。私達の生活において、いまやコンピュータは欠かすことの出来ない大切なパートナーとも言える存在なのです。
こう考えると、コンピュータを扱うSEという職業は、現代社会における花形のようにも思えてくるでしょう。ですが実際は様々なマイナスイメージもあり、人の入れ替わりが激しい職種であることも事実ですよね。いわゆる「ブラック企業」と呼ばれる企業が多い印象を持つ人も少なくないのではないでしょうか。
現代において無くてはならない存在であるにも関わらず、どうしてSEはこれほど離職率が高い職業として有名なのでしょうか。その理由について、いくつかの原因を解説します。
長時間残業が当たり前
システム開発という仕事は、スケジュール管理が難しいことが特徴の一つとなっています。一つのプロジェクトに多くの技術者が参画し、長期間に渡って分担して仕事をこなしていく必要がありますが、当初の予定が計画通りに進むことなどまずありません。
特にクライアント側のIT知識が乏しい場合にそれは顕著で、いつまでたっても要件定義が終わらなかったり、開発終盤までガンガン仕様変更を要求してきたりします。
にも関わらず、納期だけは頑なに変えさせてもらえないことがほとんどですので、必然的に、どんどん残業時間が嵩んでいくことになってしまうのです。特に納期間際は修羅場になることも多く、何日も徹夜をする羽目になり、いわゆるデスマーチと呼ばれる状況になることも珍しくありません。
全ての会社でこうしたケースが該当するわけではありませんが、こんな環境では体調を崩したり、精神を病んでしまっても不思議ではないでしょう。
教育体制が整っていない
大学でプログラムを学んでいた人でも、入社直後から即戦力になる人は、そう多くありません。業務システムは非常に巨大な規模のプログラムであるため、ある程度慣れるまでは、全体像を把握するのが困難だからです。
そのため多くの企業では、新入社員を研修やOJTといった形でサポートするわけですが、必ずしも良い教育を受けられるとは限りません。納期間際の時期などの激務の中で、新人に仕事を教える時間など取れるわけがないのです。
運悪く入社直後から炎上中のプロジェクトに放り込まれてしまった人などは、一年以上雑用ばかりで何一つ教えてもらうことが出来ず、転職を考えるようになるケースが少なくありません。
多重請負が常態化している
SE業界では二次請け、三次請けの多重請負が常態化しており、問題になっています。運良く上流工程に関わることが出来ればまだ良いのですが、下請けに属してしまった場合、余り物の厄介な仕事ばかりが回されることになるでしょう。または雑用ばかりをする羽目になり、スキルアップを目指したくても出来ない、という状況も起こり得ます。
きつい激務に耐えても相応のメリットがなくては、仕事へのモチベーションを維持するのは難しいですよね。
女性向けの制度が乏しいことがある
最近は女性のSEの方も見るようになりましたが、それでもまだまだ男性の方が圧倒的に多いのがSE業界の実状です。過去に実施された経済産業省の調査では、全体の85%が男性だったと言うのですから、驚きですよね。
そのため女性への配慮が足らず、育休や産休など、女性に向けた制度が不十分な企業が少なくありません。仮に制度があっても、復帰後にまともな仕事を任せてもらえず、出世の道が断たれてしまい、泣く泣く辞めざるを得ないというケースもあります。
こうした企業ではセクハラやマタハラなどハラスメントに対する意識が低いことが多く、離職率の高さに繋がっていくことがあるそうです。
客先常駐における退職理由
SIerの企業に代表される働き方の一つに、客先常駐という働き方があります。自社から別の企業に派遣され、派遣先の上長の指示に従って仕事をします。正社員と派遣社員の特徴を併せ持つ、かつては特定派遣と呼ばれた働き方に近いものですね。
客先常駐は、多種多様な業界のシステムに触れる経験が出来るというメリットがある一方、いくつかのデメリットもあります。
そこで、ここからは客先常駐を中心としている企業における、離職に繋がる原因について見ていきましょう。
仕事内容も通勤場所も選べない
客先常駐の場合、営業チームが受注してきた仕事を、スキルや経験に基づき社員に振り分けていきます。そのため自分が希望する業界の仕事に就けるとは限らず、それどころか遠方まで通勤しなくてはならないケースもあります。
いつ別の現場に派遣されるかも分からないため、勤め先の近くに引っ越せばよい、というわけでもないのがネックです。そんな不安定な生活に嫌気が差し、退職を考える人もいることでしょう。
自社内の交流が出来ず、孤独感がある
様々な企業へ出向するため、自社のメンバーが同じところに派遣されることは滅多にありません。また、派遣されても別のチームに組み込まれることも珍しくないため、同僚間での交流を持ちにくい傾向があります。
その解消のため、1~2ヶ月に1度、本社に集まり会議の名目で顔合わせをする、という企業も多いのですが、たまに会うだけでは仲良くなるのも難しいですよね。また、いちいち帰社しなければならないことに煩わしさを感じる方も多いでしょう。
仲間同士で力を合わせ、チームワークを発揮して働きたい! という方にとっては、孤独を感じることになるかも知れません。
適切な評価を受けることが難しい
客先常駐のデメリットの一つに、正確な人事評価が難しい、という問題があります。同じ現場に評価者となる上長がいないので、客先社員からの又聞きでしか評価の判断材料がなく、納得のいく評価をなかなか受けられないのです。
高い評価を受けるためには、時には自ら成果をアピールしなければならないこともあります。内気な人には主張し辛いこともあり、その煩わしさから転職を考える人も多くいらっしゃるようです。
実はポジティブな理由もある
SEの離職率の高さについて、ここまでいくつか解説いたしましたが、実はネガティブな理由で転職を考える人ばかりではありません。スキルアップのため、キャリアアップのため、そんなポジティブな理由を持つ人も多くいらっしゃるのです。
SEは技術職ですので、「何が出来て、何が出来ないか」というスキルをハッキリさせやすい、という特徴があります。一つの会社である程度スキルを身につけた後、もっと条件の良い企業へ転職する、というキャリアプランを立てやすいのです。
また前述の通り、情報化社会とも呼べる現代では、SEの仕事などいくらでもあるので、転職先をすぐ見つけることが出来ることも、転職のハードルを低くするのに一役買っています。
特にコロナ禍に陥った最近では、「フルリモートで働きたい」と考える人が転職する例も増えているようで、優秀な人材がフルリモート制度のあるベンチャー企業に流れていく、という現象も起こっているそうです。