AWS、GCPの並ぶ三大クラウドサービスの一つ、「Azure」をご存知でしょうか。何を隠そう、Windowsを開発したあのMicrosoft社が運営しているクラウドサービスで、サーバーの提供だけでなく、ストレージサービスやAI開発など、様々な形で業務システムをサポートしています。
言わずと知れたMicrosoftが開発したサービスですから、さぞやその評判もトップクラス……かと思いきや、他の三大クラウドサービスであるAWSとGCPと比較すると、ネームバリューは一歩劣り、シェアもいま一つといった結果です。
企業規模は劣らないはずなのに、この結果はどういうことなのでしょうか。今回は、そんなAzureの弱点や、Azureならではの特徴や長所について見ていきましょう。
Azureとは
Azureは、Microsoft社が2010年から展開しているクラウドサービス「Microsoft Azure」の略称です。当初は「Windows Azure」という名称でしたが、2014年に今の名称に変更されました。
サーバーやストレージなどのインフラを利用出来る「IaaS(Infrastructure as a Service)」、データベースやプログラムの実行環境を提供する「PaaS(Platform as a Service)」、Office365のようにクラウド上でソフトウェアを利用出来る「SaaS(Software as a Service)」の3つの形でサービスを展開しており、業務に応じた幅広い方法で利用することが出来ます。
メリット1:全世界的に展開されたネットワーク
Microsoftはネットワーク分野でも積極的に投資しており、世界中にAzureのデータセンターを建設しています。これらのデータセンターは「リージョン」と呼ばれ、現在稼働しているリージョンは60以上、140ヵ国で利用可能であり、他のクラウドサービスと比べても大きな魅力となっています。
メリット2:強大なセキュリティ
Windowsを開発した企業であるMicrosoft社は、その膨大なノウハウを活かし、ソフトウェア・ネットワーク・コンプライアンスなどを問わず、強大なセキュリティを構築しています。
また、データセンター自体も「入館者制限」や「セキュリティゲート」、「自動化による人的ミスの削減」など様々な対策を取っており、安心の利用環境を整えています。
メリット3:いざという時の法律適用
クラウドサービスはグローバルに展開しているプロジェクトも多く、ユーザーが外国企業であることも珍しくありません。そのため、いざトラブルに見舞われた時にどのような対応をするべきか、というのは予め検討しておかなければならないのですが、外国の法律が適用されてしまうと、日本企業にとっては不利になるケースも多々あります。
その点、Azureは日本の法律を準拠法としており、東京地方裁判所が管轄の裁判所となっています。いざという時に不利な戦いを強いられることがないため、この点を評価しAzureを導入する企業も多いようです。
メリット4:Microsoft製品との連携
Microsoft社製のクラウドであるため、同社のツールとの相性の良さが魅力の一つです。特にOffice365との連携がしやすく、巨大なファイルにも高速でアクセス可能です。
それらのツールを業務の根幹に利用しているプロジェクトほど、多大な恩恵を得ることが出来るでしょう。
デメリット1:仮想マシンに弱点が多い
AWSやGCPと比較した場合の最大のデメリットは、仮想マシンの起動速度が遅いことです。例えば運用中のサーバーにトラブルがあった場合や、試験用サーバーを早急に用意しなければならない場合など、このデメリットのインパクトは、緊急時ほど大きく感じることになるはずです。
デメリット2:プラットフォームの専門知識が必要
サーバーの構築時にある程度のサポートが得られますが、全てのインスタンスを効率的に動作させられるよう構築するためには、それなりの専門知識が必要になります。
学習コストを考えるととても手軽とは言い難く、Azure構築を請け負う企業と契約して外部委託することも検討してみると良いでしょう。
デメリット3:コミュニティ規模が小さい
Azureは成長中のクラウドサービスであるため、AWSやGCPに比べてコミュニティの規模が小さいのが難点です。どうしても情報量が少なく、更にヘルプトピックが少ないためトラブル時の難易度は高めと言えるでしょう。そう言った意味でも、扱う側にスキルや知識が必要になります。
導入事例について
Azureのメリットの中でも特徴的なのが、「全世界的に展開されたネットワーク」と「Microsoft製品との連携」です。今回は、その2つを最大限に活用している企業の導入事例について、ご紹介してみます。
Azure導入事例1:株式会社セガ
家庭用コンピューターの低価格化やインターネット環境の整備、高度な技術発展などに合わせて、ゲーム業界は急速な成長を遂げました。中でもオンラインゲーム市場はどんどん拡大する一方です。日本で開発したゲームが全世界に展開され、人種や国籍の壁なく遊ぶことが出来るなど、一昔前は誰も考えもしなかったことでしょう。
株式会社セガは、2020年4月、同社の人気シリーズ「PSO2(ファンタシースターオンライン2)」の北米版の公開に踏み切りました。
そこで課題となったのが、誰もが遅延なく遊ぶことが可能なゲームサーバーの構築です。
PSO2はアクション要素の強いゲームであるため、通信に僅かでも遅延があれば、ゲーム性が大きく損なわれてしまいます。その要求スペックを満たせるクラウドサービスはなかなかなく、同社がやっとの思いで見つけたのが、Azureの中でも最上位ストレージである「Microsoft Azure Ultra Disks」でした。
Ultra Disksは様々な状況で柔軟に対応することが可能なプランで、想定の3倍以上のアクセスが発生した時でも、容量やIOPS、スループットなどを動的に変更し、ユーザーの増減に迅速に対応することが出来たそうです。
Azure導入事例2:コニカミノルタ株式会社
コニカミノルタは、カメラの製造からオフィス向けの複合機やプリンター、産業材料、医療機器、プラネタリウムまで、様々なビジネスを展開している企業です。同社は早期から全社を挙げて働き方改革に取り組んできており、新型コロナウイルスの蔓延以降も、積極的にテレワークを導入するなどして、柔軟な対応を進めてきました。
そんなコニカミノルタ社のIT部門では、『運用業務集約化と自動化』という方針が掲げられており、その中の一つに『社内サービスデスクにおける、チャットボットの導入』がありました。これは「パスワードを忘れてしまった」「ツール使用許可の申請方法が分からない」といった、社内ITのサービスデスクに頻出する質問を、集約・自動化するためのプロジェクトです。
そこでチャットツールとして抜擢されたのが、Microsoft Teamsでした。同社では既にTeamsの導入が始まっていたため、それをチャットボットと連携すれば、即座に国内のグループ社員全員に適用することが出来たのです。
すぐにAzureの導入が決まり、Microsoft社が提供しているデータ視覚化ツール「PowerBI」と、自動化サービス「Power Automate」を利用した、効率的なAI学習を始めました。その結果、約半年で7.7人月もの工数を削減することに成功し、社内のITリテラシーも向上させることが出来たそうです。
Microsoftならではの独自要素
Azureは3大クラウドサービスの中では最もシェアが劣っており、また、VMの性能面でも一歩遅れを取っている印象があります。ですが、それでも業務システムを組む上で不足があるスペックというわけではありませんし、何より「Microsoft製品と連携可能」という、強力なメリットが存在しています。これは他のクラウドサービスでは代用出来ない機能であり、これだけでもAzureの導入を検討する価値があると言えるでしょう。
天下のWindowsを開発しているMicrosoft社なのですから、今後、技術面・スペック面を問わず、どんどん進化していくのは間違いありません。まずは自分たちがどのような機能が必要か、導入前に検討してみると良いのではないでしょうか。