モノ作りを行うSEの仕事は、それを注文してくれるクライアントあってのもの。お金を払うクライアントの存在がなければ、経営を続けられる企業なんて存在しません。顧客を獲得するために、企業はクライアントの希望を第一とし、あらゆる要求に応えようと、日々技術を磨いているのです。
ですが、いくら顧客ファーストの精神で仕事をしようとしても、全てのクライアントと友好的な関係を結べるとは限りません。中にはむちゃくちゃなスケジュールを要求したり、とにかく高圧的に迫ってきたりと、とんでもないクライアントがいることも事実です。あまりに酷い態度を取られ過ぎて、鬱を発症してしまう人も少なくありません。
今回は、厄介なクライアントに当たってしまった時のために、タイプ別の対策をご紹介しましょう。
自社要件を理解出来ていない迷走タイプ
プログラムの大枠を検討する要件定義は、プロジェクトにおいて最も重要なフェイズです。どんな機能が必要か、どんな使用状況を想定しているかなど、前提となる全てが決まるため、このフェイズを疎かにすると、その後の開発がボロボロになってしまいます。その重要性を理解していないSEは、まずいないことでしょう。
ですがクライアントの中には、「最初だし何となく全体像をふわっと決めればいいか」という、とんでもない認識でいるケースもあるのです。
そういった企業の場合、打ち合わせの担当者が新人営業マンや、狭い範囲しか見えていない現場の方だったりして、満足のいく結果が得られないことがあります。そうなると本来必要なものとはかけ離れた要件になってしまい、後々仕様変更を次々と要求されることになってしまいます。
それを防ぐためには、相手の知識レベルが低そうだなと感じても、妥協せず突っ込んだ仕様決めをすると良いでしょう。理解していなさそうであれば、通じるまで説明し続け、それでも駄目ならしっかりと議事録に残し、後から要件バグだと言われないように対策しておいておください。
とにかく資料を要求する蒐集タイプ
プログラム開発は、要件定義に始まり基本設計、詳細設計、開発、テストと多くの工程をこなさなければなりません。
大抵の場合、その一つ一つに何かしらの資料を作る必要がありますが、これらの中には自社だけで使う内部資料と、クライアントに提出する納品用の資料がありますよね。
どれを納品用とするかはクライアントによって違い、テスト結果があれば良いというケースから、要件定義や設計書も必要とするケースまで様々です。
必要な資料が多ければ多いほど納品作業が大変になるわけですが、中にはありとあらゆる資料、設計書だけでなく、打ち合わせで使用したホワイトボードの写真まで要求するケースもあるのです。
開発に関わったものは全て必要だ、というのがクライアントの言い分ですが、実際のところそんなことを言い出すクライアントほど、納品しても検品することはありません。いたずらに作業量が増え、徒労に終わることがほとんどです。
対策は、プロジェクトの開始時に納品についてきっちりと交渉しておくことでしょう。納品物を増やすということは、あらゆる資料の体裁も提出用に整えなければならなくなり、開発工数に多大な影響が出るということです。コストパフォーマンスについてしっかり伝え、お互いの妥協点を探ると良いでしょう。
パソコンすら使えない素人タイプ
昔からの企業がシステム化を導入し始めた、というプロジェクトは要注意です。SEからすれば信じられないことですが、ITと無縁の企業には、令和の世になってもパソコンが使えない管理職と言うのは大勢います。場合によってはエクセルの機能から説明しなければならず辟易した、ということさえ珍しくないのです。
こうしたクライアントは、何をしたいのかという要件はハッキリしていても、それをシステム化した場合のイメージが出来ません。その上で厄介なのは、パソコンが使えない人ほど、設計書の隅から隅まで理解しようとする点です。
通常、ログの出力方法のようなシステムとは直接関係ないところは突っ込んで聞いて来ないものですが、前述したようなクライアントは「どこからどこまで理解するべきか」が分からず、「とにかく全部説明しろ」と迫ってくるため、読み合わせにとんでもない労力が必要になります。
対策は、設計書とは別に要件を纏めた補足資料を作ることです。イラストやイメージ図を多用し、まずは全体の概要を理解してもらうことから始めましょう。システムの要点さえ理解してもらえれば、設計書の読み合わせもだんだんとスムーズになってくるはずです。
期日を守れないルーズタイプ
長時間残業の代名詞とも言えるSEの世界は、納期が非常に厳しい事で有名です。特に小売チェーン店など、全国展開が必要なシステムは導入日程がキッチリ決まっており、スケジュールをずらすことが出来ません。そのため少しでも早く開発を終えるべく、日々SEは前倒して仕事を進めようとするのです。
ですが、そんな危機意識を共有してくれないクライアントも多く、打ち合わせや資料の共有、質問の回答などの期日にルーズなケースもあります。そういったクライアントに限ってシステムの納期にだけは厳しいので、SEからすればたまったものではありません。
こうしたクライアントへの対策は、プロジェクト開始時点で、「いつまでにこれをしなければ、納期が守れなくなる」というスケジュールを提示しておくことです。理路整然と説明し、スケジュール遅延時の責任の所在やリスク管理をはっきりさせておくと良いでしょう。
発注元であることを振りかざすパワハラタイプ
プログラム開発の世界では、2次請け、3次請けなどの多重請負構造となっていることが少なくありません。そのため大きな力関係の差が生まれ、エンドユーザーが発注元であることを盾に、強権を振りかざすケースも珍しくはないでしょう。
急な仕様変更は当然のこと、それでいて納期の調整は認めず、予算やスケジュールを相談すれば交渉段階で「要望を呑まないなら、いつでも仕事を打ち切るぞ」「代わりの企業なんていくらでもいる」と、平然と言い放ってくるのです。
対策は非常に難しく、基本的にはそのプロジェクトが終わるまで、理不尽に耐えるしかありません。それでもどうしても耐えるのが難しいのであれば、上司や営業チームに相談し、次の仕事を受注しないよう相談するしかないでしょう。チームメンバーが疲弊し、このままでは退職者が出かねないと訴えて、上司も「割に合わない仕事」と判断してくれるかも知れません。
適切な距離を模索しよう
仕事をする上で、クライアントの人柄はその後の仕事全てに影響するほど重要なポイントです。こればかりはプロジェクトを始める前に、仕事をしやすい相手であることを祈るしかありませんが、一つ間違いなく言えることは、クライアントも自分と同じ人間である、ということです。
コミュニケーションを取って友好的な関係を作ることが出来れば、理不尽なことも言われにくくなり、仕事をスムーズに進めることが出来るでしょう。
それはSEに限らず、どんな仕事でも同じことです。面倒なことを言われても、厄介な相手と決めつけ過ぎず、適切な距離を模索していきましょう。